着陸技法 テールウインド/背風での着陸

 テールウインド/背風での着陸を話すときに、副操縦士や学生の何割かが誤解していると感じている事があります。
誤解とは、テールウインドで接地するときにストーンと揚力を失うというイメージです。
これを誤ると大型機に乗るようになってウインドアディティブ:Wind Additiveを逆に考えてしまうことになります。

 実はこれを理解するためにはWind Gradientという自然現象を理解しなければならないのですが、現在の飛行機の操縦過程ではあまり詳しく教えられていないというのが現状のようです。(大手エアラインのAOMにはしっかり載っています。さすがですね。)
Wind Gradientとは下図のように地面近くで風が摩擦のために弱められる現象です。
翼表面の境界層と同じです。

グライダーはこの傾向の影響を大きく受けるため、強風であるほど高め、もしくは速めに進入します。

上図はヘッドウインド/正対風ですが、風向きが逆になっても地面に近づくにつれて弱められるという性質は同じです。

 これをふまえてX-Planeで再現してみました。
オリジナルの14,000m滑走路に高さの異なる3本の吹き流しをど真ん中に設置して、その横に高度を下げながら着陸しようとするセスナを置いてみました。
吹き流しの角度で風速を表現しています。

例えば15kt
10kt
8kt

説明のためGradientは多めに考えましたが、このように地面近くになると風は弱まります。

これからが本題です。

では一定のスピード、一定のスラストでアプローチをしているセスナは、上図のように急にテールウインド/背風が弱まった場合、揚力は減るのでしょうか?

答えはNOです。
揚力は増えます。

ピンとこない方は次の1もしくは2のように考えてみて下さい
1 テールウインドが減るということは、相対的にヘッドウインドが増えるという事に等しい現象です。
2 テールウインドで考えずにヘッドウインドで考えてみて下さい。

まだ納得いかない方は極端な状況で考えてみて下さい
80ktのアプローチスピードで進入していて、滑走路末端まで20ktのテールウインドが吹いているとしますと、グランドスピードは100ktになります。
そこで滑走路末端にさしかかって急に風が無くなった(0ktになった)とします。
急に変わってもグランドスピードは100ktのままですから対気速度も100ktになります。
結果80kt->100kt、20kt増える事になります。
ただし、風速が急に減るというところがミソで、徐々に減る場合は話が変わります。
この前提はよく確認して議論すべき点でしょう。
例えば1分間をかけて徐々に風が減る場合はパイロットのスラスト操作によって、速度は80ktのままでしょう。

いかがでしょうか?
これが理解できると、テールウインドの着陸が伸び気味になる一つの理由が理解できます。(ヘッドウインドでは逆に、接地間際にストンと落ち気味になるのです)
更にジェット機に乗られている方は、テールウインドでWind additiveをよほどのことが無い限りいつもより増やさない理由がわかってくると思います。

また、横風についても同じです。
上空では強く、滑走路近くでは弱い傾向は同じです。
例えば上空では滑走路方向に対して30kt近い横風が吹いていても、タワーがリポートする風は10kt程度などの事は頻繁にあります。

Wind Gradientについては今後、実運航のデータを示して解説してみようと思います。
→ 着陸技法 実際のWind Gradientは?

ジェット機で高高度(FL300等)をPathもしくはV/Sを維持するモードによってAutopilotを使用して降下中、テールウインドが急減に減るとSpeedが急に増えて、ややもするとVmo/Mmoに近づく現象はエアラインパイロットであればよくご存じだと思います。
これも同じようなものですね。


2021年12月追記

BoeingのFCTMがインターネットで見られるようです。
そこでB767のFCTMからWind Additiveの箇所を引用します。


最下部のNoteが重要でして、テールウインドではオートスロットルがONもしくはOFFいずれの場合でもWind additiveを足さないように(VREF+5でアプローチするように)と書かれています。

イラスト作成のヒント

今回は14,000メートル滑走路に handyobject ライブラリから吹き流し3本を借用して設置しました。


ついでに勉強するとしたら

Wind Gradientとは
CrosswindのLimitationは上空の風に摘要されますか?
Wind Additiveとは、なぜAdditiveするのでしょう
あなたの乗務機種のTail WindのLimitationは?
Tail Wind 10ktで着陸距離は何フィート伸びますか?
離陸時のTail WindのWind Gradientが離陸、上昇性能に与える影響は?
離陸の性能表に上空の風の変化は加味されていますか?
今回の話は急にTailが減るという想定ですが、ごくゆっくりとTailが減る場合の揚力の変化は?
空港で観測される風は地面から何フィートくらいでしょうか?
この場合のフレア後のスラストを減じるタイミングは通常より早めがベストでしょうか、遅めでしょうか?