機長の意思決定(リスクアセスメント)を深掘りしてみよう   その2 頻度論がなじまないケース

その1では頻度論とベイズ論(ベイズ統計)の違いについて少し触れましたが、その2ではパイロット目線でもう少し突っ込んで考えてみましょう。

その1で紹介したランウェイチェンジ(滑走路変更)ですが、大空港でこれが行われると、パイロットも管制官もかなり大変なことになります。パイロットとしては、アプローチ中にこれが行われると、FMSへの再入力やNAVSETのやり直しやランディングブリーフィングのやり直し、ホールディングへの対処など、ワークロードが一気に増えることになります。

 そこで気になるのは、ランウェイチェンジが行われそうか、今の滑走路で変更が無いかという事、つまり「自分が着陸するまでにランウェイチェンジが起こる確率」です。
しかし、よーく考えてみて下さい。
パイロットとして最終的に悩む事は、
「ランウェイチェンジが起こる確率」ではなく、
「ランウェイチェンジを予想してFMSへの再入力やNAVSETのやり直しやランディングブリーフィングのやり直しをすべきか否か」、つまりランウェイチェンジへの対応を行うべきかそうで無いかという点でしょう。

 この点についてもう少し説明しましょう。
計器飛行を行うエアラインパイロットにとって、この対応にはかなりの労力が必要になります。従って、毎フライト毎に少しでもランウェイチェンジが予想されるからといって対応を行っていると、副操縦士は疲れ切ってしまいます。
従って、必要なときに適切に対応を行うべきなのですが、実際にはこの見極めがとても難しいのです。

 この問題を、頻度論で考えてみましょう。
頻度論で解決するためには、ランウェイチェンジが僅かに予想される、ある特定の状況下でレギュラーの機長が100人中何人が事前対応を行うのかをアンケートや実際のデータで確率を取得する必要があります。
仮に80%のレギュラー機長が対応する状況下で、機長を目指す訓練生が対応を行わなかったら叱責を受けることは免れません。
しかしこの80%を計算する事は現実的ではありません。
更に特定の状況には数百種類ものケースがあって解析を行うことは無理でしょう。
つまり、このケースにおいて頻度論はなじみません。

 ベイズ統計では意外と単純に考えられます。
ベイズ統計では「信念、見込み」の大小を確率で表します。
(参考になる読み物は下記)

https://diamond.jp/articles/-/67725

「信念、見込み」は
「ランウェイチェンジへの対応を行うべきかそうで無いか」
に直接対応します。
つまり、自分の信念をある程度理論的に考え、モデル化することによって「信念、見込み」を自信を持って他のクルーに表明することが出来るのです。
しかもベイズ統計の良いところは、事前分布やベイズ更新を使って、導き出した自分の信念を柔軟に変更できるのです。
このモデル化のプロセスや、更新の頻度など道筋が教官に理解されて、機長に更に近づくことが出来ると思います。
(ベイズ統計などの言葉は現在のパイロット界ではなじみが薄いので、あくまでその方法が理解されるように努力すると良いでしょう)

では具体的にはどのように考えたらいいのか?
次のその3では身近な例としてオンライン会議へのアクセスで悪戦苦闘した実体験をテーマに紹介しましょう。